稀代のアーティストの新表現本『スヌープ・ドッグのお料理教室』
2022年の春にとても話題になった本です。
すぐに入手して隅から隅まで楽しみつつ、読めば読むほど編集者として嫉妬した本でもありました。
何しろ自由なデザインとオレ様感満載の文章が楽しくて、うるさいぐらいに原色を使ったデザイン。これ、料理本でやる?
見開きで縦写真を使うなんてこと、考えもしなかった!
などと、いちいちツッコミを入れながら読んだ料理本は久しぶりでした。
そんな自由な本書は、料理本をレシピを調べるための本としか認識していない人に、あらたな価値感を感じてもらえそうなパワーのある本だと思います。
ただ、何しろ高額な本なので、このパワーに巻き込まれたい人にしか届かないかもしれない。
目次
スヌープ・ドッグの俺様料理
では、本書を細かく見ていきましょう。
著者は米国のヒップホップ界超スーパースターであり、2022年2月のスーパーボウルのハーフタイムショーに出演し世界中で話題になったスヌープ・ドッグ。
料理の腕前はプロ級で、2018年に米国で本書が出版された時には、彼のレシピで作ったフライドチキンが絶品とSNSで話題になったと本書の訳者のあとがきにはあります。
また、2008年にTV『マーサ・スチュワート・ショー』に出演して以来、マーサ・スチュワートとの親交は深いとかで、YouTubeを検索してみれば、ふたりの出演番組がどっさり上がってきます。
それでマーサが本書の序文を寄せています。
ほー、そんな人の料理なら見てみたい!と思うでしょ。
でも、日本で言うところのいわゆるレシピ本と同様に考えると失敗します。
アメリカの家庭のキッチンを覗き見
まずレシピに対して料理の完成写真があるものとないものとがある(…てか半分以下かも)。
また、レシピは4人分とあるけれど、アメリカサイズなのでとにかく多い。
章立ては、「ブレックファースト」「ランチ」「ディナー」「デザート」「ドリンク」「パーティ」となっていて、どれも「俺の最高」が掲載されている。
例えばだが、のっけっからサワークリームを隠し味に使ったコーンマフィンが「誰にも負けない自信がある」と紹介される。
いや確かにおいしそう。
うん、めっちゃ食べたい、作ってみたいってなった。
他にも、アメリカ料理と言えば必ずリストアップされるチキン&ワッフルズとか、ベイビーバックリブとか、チリチーズポテトとか、チョコチャンククッキーとか。
サンクスギビングに欠かせないターキー&グレイヴィーは8〜12人分のレシピ。
スヌープによるプレイリストもあるから、音楽をがんがんかけながら盛り上がってくれYOー、な仕掛けが楽しい。
また、「俺の食品棚」とか「俺の冷蔵庫」の写真がどーん、しっかり解説どーんと巻頭にあって、アメリカ人の食生活が丸見えなのも興味深くて、しげしげと写真を眺めてしまいます。
アメリカ好き、料理好きにプレゼントしたい本
とはいえ、何度も言いますが、何しろ3,410円もする本。
熱心なファンでないとなかなか手が出ないのは当然でしょう。
だからね、この本は、レシピブックではなく、スヌープという稀代のアーティストを料理を通して表現した本だととらえるべき。
デザインはめちゃくちゃポップで原色使い、翻訳もまた思い切りがいい。
「ありきたりのブタには興味がねぇ」といった調子の訳し方です、お行儀よくちゃんと作りましょう、じゃないのは明白。
なのに訳者のあとがき、訳注、日本で作るための代用食材リストがめちゃくちゃ詳しくて興味深いのです。
アメリカで本場の味を食べたことがなくても、これらをしっかり読み込めば作れそう。
アメリカが好きで、料理が好きで、アメリカ料理に挑戦してみたい、家でもふつうに作って食べたい、という人におすすめします。
いや、プレゼントブックにちょうどいいかも。
行儀のいい「お料理教室」ではないけれど、丁寧なレシピであるのは確か。
手順はめっちゃ細かいです。
やっぱり魅力的な本です。
日本でこの値段にするなら、本国と同様にハードカバーにしてもらって、6〜7千円ぐらいになってもよかったかもなー。
英語版を買わねばと思ってます。
amazon.comでぜひ見てみて。
プロフィール
スヌープ・ドッグ(Snoop Dogg)
1971年、カリフォルニア州ロングビーチ生まれ。10代で従兄弟のネイト・ドッグと友人のウォーレンGと音楽活動を始め、ヒップホップ界のレジェンド、ドクター・ドレーと共に制作。デビューアルバム『Doggystyle』を筆頭に、“Gin & Juice”、“Nuthin’ But A `G’ Thang”、“Drop It Like It’s Hot”、“Young, Wild and Free”など、多数のアルバムや楽曲を発表しビルボード・チャートに君臨してきた。ユースのためのフットボールチームを結成して地域の活性化にも貢献。ハリウッド・ウォーク・オブ・フェームにはSnoop Doggの名前が刻まれている。(本書より)
KANA(カナ)
翻訳家、通訳、音楽ライター、インタビュアー、作詞家。レコード会社輸入部門でCD輸入やレーベル開拓を担当後、フリーランスに転身。「bmr」他音楽誌を中心にインタビュー記事の通訳および記事執筆や、スヌープ・ドッグ、ドクター・ドレー、アリアナ・グランデ、ジャスティン・ビーバーなどジャンルを問わず海外アーティストの楽曲の歌詞対訳を手がける。シアラ、リアーナなどR&Bやヒップホップ、ジャズ・アーティスト来日時の通訳も務める。長年Kana Muramatsuの名で活動してきたが2021年よりペンネームをKANAに改名。 (本書より)
スタッフ
日本語版ブックデザイン: 小沼宏之[Gibbon]
目次
[はじめに]
マーサ・スチュワート
イントロダクション「俺のキッチンに招待するぜ」
俺の食料品棚の中/俺の冷蔵庫の中/激推しスポット
Ch.1 ブレックファースト
ダ・スムーヴィー/ナッツョ・ママズ・コーンマフィン/スタックド・アップ・フラップ・ジャックス/シナモン・ローリン/ビスケッツ・ウィズ・ダ・ティックネス・グレイヴィー/OGブレックファースト/クリスピー・ベーコン/アシュフォード・アンド・シンプソン・エッグ/ビリオニアーズ・ベーコン/マイル・ハイ・オムレツ
Ch.2 ランチ
チョップ・イット・アップ・サラダ/キング・クラシック・シーザー/ランチ・ブリズーイク/ゲット・ザット・ブレッド・サブ/OGフライド・ボローニャ・サンドウィッチ/ミシシッピー・キャットフィッシュ・サンドウィッチ/カリビアン・クイーン・キュバーノ/ノー・リミット・ポゥ・ボーイ
Ch.3 ディナー
ザ・ラスト・ミール・シュリンプ・アルフレード/スパゲッティ・デ・ラ・フッド/マック・アンド・チーズ/ダ・ネクスト・レヴェル・サーモン/ダウン・アンダー・ロブスター・テルミドール/ヤーディ・ヤードバード/ゲット・ダ・チップ・フライド・チキンウィングス/OGチキン・アンド・ワッフルズ/フォウティセリー・チキン・ウィズ・ヴェジタブルズ/オレンジ(でも色はバーガンディ)・チキン・ウィズ・ホワイトライス/ポーク・チョップ・ショップ・ウィズ・スウィートポテト・マッシュ・アンド・スピニッチ/ダ・ソフト・タッチ・タコス/シアード・フィレ・ミニョン/ベイビー・ガット・バック・リブス/ダーティ・サウス・ガンボ
Ch.4 デザート
ヘイ・アンティ・バナナ・プディン/ロールス・ロイス・PBチョコレートチップ・クッキー/バウ・ワオ・ブラウニーズ・アンド・アイスクリーム/バターミジィールク・パウンド・ケーキ・ケーキ・ケーキ・ケーキ/ラグス・トゥ・リッチーズ・アップルパイ/ギミ・スモアズ・パイ/ディップド・アンド・ウィップド・ストロベリーズ/ゴー・ショーティ、イッツ・ユア・バースデー・ケーキ/ハッスル・ハード・チョコレート・チーズケーキ
Ch.5 ドリンク
OGジン&ジュース/リミックス・ジン&ジュース/ダット・グッディ・ギムレット/ジェット・セッティン・ネグローニ/ソー・クリーン・ウィ・ダーティー・マティーニ/ウェイク・ン・ベイク・コープス・リヴァイヴァー/ハッピーアワー・ウォッカ・クランベリー/フレンチ・コネクト/ダット・タング・シンガポール・スリング
Ch.6 パーティー
サンクスギビング(感謝祭):アット・マイ・ハウス/ゲームデイ:フットボール試合の時間だぜ/ゲームナイト:やっぱりドミノにかぎるぜ/フロム・ダ・ビーチ:シーフード・リミックス
謝辞
バイオグラフィー
[巻末] 訳者のことば・訳注・代用食材リスト