ウクライナの料理と歴史
これまでほとんど日本では知られていなかったウクライナの料理文化を伝える本です。
2022年7月に、ユネスコの世界無形文化遺産としてウクライナ料理の代表、ボルシチが登録されました。
ロシアのウクライナ侵攻が始まるまでは、ボルシチはロシア料理だと思っていた人が大半。
もちろん私もです。
目次
名実ともに日本語版「ウクライナ料理大全」
そんなわけで、ロシア料理については
完全に無知な状態で、
これまでロシア料理だと伝わっていた有名料理のほとんどが
ウクライナなど東欧圏のものだった
と知って驚いたものです。
本書の前文にも、そうした現状を受けて、
「現在のウクライナの料理、食習慣、地方ごとの特産品などをみなさんに紹介したい」
とありますので、戦争を受けて発刊された本かと思いきや、
違いました。
原初はウクライナ国内で2021年に出版されているのです。
それを2022年にフランスで翻訳して出版され、
日本の小学館が同年12月に翻訳出版しました。
フランス版はこちら
著者4人は食文化、料理史の専門家
著者はウクライナ食文化プロジェクトに参加した4人の専門家たちですが、
中心はイージャック出版社創設者のオレナ・ブライチェンコさん。
創設者のオレナさん自身が歴史学博士であり、
部食文化研究者ですからその記述は信頼がおけます。
“ウクライナ料理の味と構成の妙、
そのリズムと生き祭の美しさは、
とくに季節ごとの食材位よって発揮される。
ウクライナに一年滞在して
季節の料理を楽しむのは、
まるで刺激的なグルメ旅行をするようなものだ。”
とオレナさんは書いています。
その言葉通り、料理の写真も、本のデザインも
何もかもが大変に美しいのです。
ページをめくってウクライナへの旅を
刺繍が施されたクロスなどが効果的に添えられた皿は
現代風だったり、伝統の食器だったりが使われ、
そうしたビジュアルが洗練されているため、
料理文化史だからといった教科書的な香りも、
野暮ったい田舎料理といった風情は
どこにもないのです。
ページをめくる手が止まらなくなるくらい美しく、
また読み応えのある解説が6章にわたって展開されています。
本書によれば、ウクライナは比較的温暖な大陸性気候とのことですが、
ニュースで見る冬の風景は過酷そうですよね。
南部と北部ではだいぶ様子が異なるようで、
冬を乗り切る工夫がウクライナ料理の
重要な部分を構成する要素であるのは確かそう。
肉や魚、きのこなどを長期保存されるための技術が発達し、
甘み、酸味(発酵)、塩味が味の決め手となっているそう。
とくに発酵はよく使われる手法で、
肉や魚、野菜に加えてチーズも塩漬けにするのだとか。
ウクライナ式料理外交
実はつい先日、私が理事を務める一般社団法人日本ガストロノミー協会で、
ウクライナ料理を楽しむ会を開催しました。
料理はウクライナから避難してきたプロのシェフによるものなので、
レストランの味であり、かつ伝統料理そのもの。
ウクライナ人にとって大切なソウルフードである
「サーロ(豚の脂身の塩漬け)」を使った料理や、
赤いボルシチ、緑のボルシチの両方をいただき、
あまりに滋味深い美味に驚きました。
この体験で遠かったウクライナがぐっと身近に感じられ、
帰宅してすぐ本書を開いて、
その日に食べてきた料理を復習したのは言うまでもありません。
最終章である6章は
「ウクライナ式料理外交」です。
2020年出版時には思いもよらなかった、
いや兆しはあったのでしょうか。
“ウクライナ料理は高いポテンシャルを秘めている。
技工活動に役立つだけでなく
ウクライナの料理外交を
国際基準にしうるほどの力を持っている」”
という記述を見るにつけ、
どこでそのバランスが崩れてしまったのだろうと
思わざるを負えません。
なお、本書の翻訳出版にあたっては、
NPO法人日本ウクライナ友好協会KRAIANYが
協力参加しています。
スタッフ
日本語翻訳 田中裕子
ウクライナ語監修 NPO法人日本ウクライナ友好協会KRAINANY
翻訳協力 株式会社リベル
編集 笠井良子(小学館CODEX)
目次
1 ウクライナ料理の歴史から
2 ウクライナのおもてなしの伝統
3 季節の料理
4 甘いお菓子
5 お祝いの日の料理
6 ウクライナ式料理外交
参考文献
謝辞