青皿に香菜とえびの魔力。堤人美さんの『香り野菜が好き!』
定価:1,540円
発売日:2018年5月14日
発行・発売:家の光協会
判型・体裁:A5変形(25.4 x 18.4 x 0.6 cm)、95ページ
なんといってもこの表紙。
青皿にのっかった香ばしく揚げ焼きされたえびと、山盛りパクチーとディルの勢い。
エスニックな味の予感と香りががつんと背中を押してくれて、思わずポチってました。
そして到着した本を開いてまた、買って大正解! と親指を立てた一冊。
香り野菜をモリモリ食べるための一冊。
少ない材料で新しい味に出会える一冊。
普段は、「薬味」とか言われて、小皿にちょこっとだけ盛られるような、香りが強いけれどもそれだけでは一品にならないような野菜たちが主役のレシピ本です。
攻めてるなあ、ほんと。
目次
21種類の香り野菜で65レシピ+6ソース
青じそとかせり、三つ葉にみょうが。
ふだんはほとんど目立つことのない、でも意外にファンは多い野菜たち。
パセリなんて、食べられずにぽいっとお皿のはしっこに追いやられてしまうもの。
ハーブというかわいい名前で十把一絡げにされてますが、バジルもミントも西洋料理には欠かせない香りの強い葉ものたち。
ひとつかみ入れれば一瞬でエスニックな味に変身させてくれるエキゾチックな香りの葉っぱや茎。
最近でこそ、パクチーが脚光を浴びましたが、脇役以下の扱いでしかなかった青葉が立派に料理されて、存在感ましましな様子に思わずにっこりしてしまうレシピがずらり。
この本で使われている香り野菜や21種類。
我が家の冷蔵庫の野菜室に眠っている香り野菜を思い出して、作ってみたくなります。
いや実際、パセリとちくわでかき揚げしました。
定番からおかず、つまみ、ご飯・麺・汁ものへ
本の構成としては、まず、堤さんちの定番6品が紹介されます。
こんな具合。
- 香菜とピーマンだけのサラダ
- ディルまみれのサーモン
- 青じそ香るひき肉炒め
- にらどっさり卵とじ
- ほぼパセリのかき揚げ
- せりが麺のぶっかけそば
料理のネーミングがいいねえ。
そうそう、おいしいよねその組み合わせ、とつい微笑みながら、この本で使われる香り野菜たちを眺めつつ、ページをめくるとPart 1へ。
- Part 1 ご飯のおかず
- Part 2 お酒のおつまみ
- Part 3 ご飯・麺・汁もの
ときて、香り野菜のおいしいストック術や香り野菜のソースレシピなどが並び、香り野菜別のインデックスでクライマックス。
このインデックスが、香り野菜を使う人のことを考えた超お役立ちもの。
これがあれば、パセリの束が冷蔵庫にいくらあってもぜんぜん怖くないってもんだ。
これらの並び順を見ていると、堤さん、心から香り野菜が好きで、いつもちゃんと使って料理しているんだろうな、ということが伝わってきます。
写真のかたい光り、コントラスト、躍動感とシズル
例えば、最初の見開きページのみずみずしい香り野菜たちが、マットなコンクリートっぽい塗装の天板の上にどっさりと広げられていて、真ん中の薄赤紫のみょうがが色っぽくて。
思い切った明暗のコントラストが印象的な見開き写真に思わず見入ってしまいます。
そこにかぶせるように、堤さんのモノローグ。
にくい演出ですよ。
かと思えば、おそばにこれでもか! というくらいの量でからまったせりに、さらさらと流れるそばつゆの照り。
ガラスの器の周りのくっきりとした影が、どこかレトロな雰囲気を醸し出して、堤さんがザクザクとせん切りにするまな板の上の大量の大葉とか、香りが漂ってきそうです。
シズル感たっぷり、なんていう表現が安っぽいくらいです。
写真を活かす思い切ったデザイン
それと私はこの本のデザインがとても好きです。
扉ページの思いきって寄った写真とか、フォントとか。
シンプルなレシピも多いので、見開き1ページにしたら左側のレシピページがすかすかになりそうなところに、調理途中や盛り付けの画像をレイアウト。
工程写真というほどでもない、いちばんおいしく調理されているシーンがひとつかふたつ、というギリギリの選択だからこそ印象に残ります。
編集者目線で見て、そうか、そういう構成の仕方があったかと気づきを得た画像の使い方でした。
著者、堤人美さんについて
もともと常に気になる料理家さんでした。
『ことこと煮込むだけレシピ』とか『材料ならべてこんがり焼くだけレシピ』のような大ヒット作から『肉サラダ』『毎日おいしい豆レシピ』など、たぶん好きなものが一緒だな、の予感があったので、新刊が出るたびにチェックしていました。
2008年9月刊の『まいにち、圧力鍋』(主婦と生活社)というムックでのデビュー以来、自身の著作は53冊(2019年8月末現在)にも上るという超人気作家の堤人美さん。
53冊というのは、共著や雑誌掲載は除いた数字。単独で53冊。すごい。
実は2019年の夏に、堤さんご自身に、著作につてインタビューする機会に恵まれました。
(その時の取材はこちら)
取材が決まった当時は超ウキウキで、って堤さんの料理本は私にはたいていツボで、新刊が出るたびに手に取っているくらい、一度ちゃんとお会いしたいと切望していた料理家さんでした。
人気料理家らしく、撮影や取材の合間の超過密なスケジュールの中、撮影後の遅い午後に時間をさいていただきました。
そのインタビューで、香り野菜がいかに好きか、撮影にあたっては、調理工程からカメラマンに追ってもらい、食材がもっともおいしく変身する瞬間を狙ってもらっていたとか、盛り付けにもこだわって、きれい過ぎないようにざっくり、でもおいしさが溢れ出すよう意識して撮影した、とか、そんな撮影の舞台裏を熱く語ってくださったのです。
ご本人としても、とても思い入れのある著書のひとつなのだそうです。
実際、とてもとても使いやすい配慮がそこかしこに見出されます。
レシピはどれもどこででも手に入る食材と調味料で、分量も大さじや小さじでキリがよく、決して卵1/2個のような残りはどうするんだ(怒)にならない配慮。
30gとか50g表記のものは、はっきりいってお好みの分量でOKなもの。
手順を見ても、一旦取り出すとか、あらかじめ加熱しておく、のような面倒を感じるものはなし。
多くの出版社からオファーが絶えない料理家らしい、作りやすいレシピばかり。
本当に本当におすすめの一冊です。
著者プロフィール
(本書より)料理研究家。京都府生まれ。出版社勤務の後、料理研究家のアシスタントを経て独立。書籍や雑誌でレシピを紹介するほか、CMの料理製作、企業のレシピ開発など幅広く活躍。かんたんレシピでも定評がある一方、だしや乾物などを使った伝統的な調理にも精通。『香り野菜が好き!さっぱり、ピリッとクセになる!おかずとおつまみ』、『肉も野菜も、しっとりふっくら。かんたんに作れる フライパンで蒸し料理』、『主菜別 献立がすぐ決まる副菜レシピ帖』(ともに家の光協会)など、著書多数。Instagram @hitotsutsu
本書で使われている香り野菜
- 青じそ
木の芽
九条ねぎ
クレソン
ししとうがらし
香菜
春菊
しょうが
せり
セロリ
ディル
長ねぎ
にら
にんにく
バジル
パセリ
ピーマン
細ねぎ
三つ葉
みょうが
ミント
制作スタッフ
- デザイン 天野美保子
- 撮影 邑口京一郎
- スタイリング 佐々木カナコ
- 構成・文 岡村理恵
- 調理アシスタント 小谷原文子、池田美希
- 校正 かんがり舎
- DTP制作 天龍社