バスクって何だとひもとく『バスク料理大全』
定価:3,080円
発売日:2016年6月9日
発行・発売:誠文堂新光社
判型・体裁:B5変形(24.7 x 18.5 x 1.8cm)、208ページ
『バスク料理大全』は200ページを超える分厚い料理本です。
誠文堂新光社が得意とする世界地方料理の専門書シリーズのひとつで、208ページにもなる分厚さ。
バスクといえば、バスチーが人気ですね。
バスチー、すなわちバスクチーズケーキとは、コンビニのローソンが2019年3月に発売してわずか3日で100万個という驚異の販売数を記録して一躍その名が広まったチーズケーキですが、このヒットによって「バスク」という言葉を、バスチーを通して知ったと言う人は多いと思います。
では、バスク料理とは何か。さっそく本書をひもといてみましょう。
目次
バスクとは?
本書の巻頭にはきちんと「バスクとは?」という疑問にこたえる基礎知識がまとめられています。
バスクとは、地域的にはイベリア半島のくびれあたり、スペインの北東から国境を超えてフランス南西部のビスケー湾に面した地域から大陸中央あたりにまたがる地域を指します。
ざっくり言うならば、バルセロナを北に向かっていったあたり。
本書によると、バスクと呼ばれる地域は明確に定義された境界はないものの、スペイン側は2つの自治州パイス・バスコとナバーラに属するビスカヤ、ギプスコア、アラバ、ナバーラの4地域、フランス側はラブール、バス=ナヴァール、スールという3地域のあたりを指すそうです。
スペインとフランス両国にまたがるバスクですが、両国とは異なる独自の文化・言語があり、スペインやフランスのパスポートを持っていようが「バスク語を話す」「バスクに生まれ育った先祖を持つ」「バスクに住む」という人々を総称してバスク人と呼び、民族として強い共同体意識を持つ、という歴史的説明をまず頭に入れておきましょう。
その上で、スペインとフランスをそれぞれ海バスク、山バスクに分けて、4つの地域に特徴的なレシピがずらりと並びます。
スペイン・バスクとフランス・バスク
本書で紹介されている100レシピは、バスクで修行したふたりの料理人、スペイン・バスク担当の作元慎哉シェフとフランス・バスク担当の和田直己シェフによってレシピ化されました。
選ばれたのは、伝統的なバスク料理。
バルのカウンターにずらりと並ぶいわゆるバル料理(ピンチョス)とは異なり、ジャケットを着た紳士とハイヒールをはいた淑女がグラスを合わせるレストランで楽しむ一皿がほとんど。
しかしもちろんこれがバスクなのであり、山バスク、海バスクの豊かな食材を日本で入手できるものに変え、またできるだけ本場の味に再現可能なように工夫されています。
レシピの合間にたっぷりと解説されている地域の歴史・文化・宗教的、食文化的な背景をまとめたコラムが大変に充実しているのも注目です。
これらを頭に入れておくだけでも、現地での食の楽しみ方は明らかに違うでしょう。
そうした充実記事は、現地在住コーディネーターやスペイン語の専門家、スペインになじみの深い写真家やライターなど8名が担当しており、専門的かつリアル。
そう、幸運なことに私、実際にかの地でリアルを実感することができました。
私は2019年4月と6月の2度にわたり、主にサン・セバスチャンを拠点にフランス側バスクも旅してきましたが、スペイン語がまったくわからないにもかかわらず、本書のおかげで充実した旅となりました。
バスク人であることを誇りに伝統的な暮らしが営まれているかの地。
東京やニューヨークといった最先端と隣り合わせに生きる大都会とは確実に異なる時間が流れています。
スペイン側とフランス側でもやはり違う。
まさに言葉の違いは文化の違い。
食べて、市場の食材を眺めてそれら違いを実感できたのは、旅に本書を持参してレシピを読んで知識を確認できたおかげです。
プロのレシピの完成度
本書の料理本としての構成を確認しましょう。
見開き2ページ、もしくは1ページにまとめられたレシピは料理写真が美しく、お皿の背景にはバスク織と呼ばれるリネン類でまとめられているため、全体のトーンはまさにバスク風。
また、本文(レシピ部分)は余白が多くとられているため読みやすい構成。
ところどころに「シェフのひとこと」として、食材や現地情報が添えられ、これを拾い読みしているだけでも楽しいです。
プロのレシピなので、家庭で気軽に作るにはちょっとハードルが高い。
であれば、バスクで修行をしてきた料理人のいる日本のレストランで現地の味を楽しむのが正解かもしれません。
ちなみに、ローソンのバスチーの参考例となったバスクチーズケーキは、実は本書には掲載されていません。
「黒いチーズケーキ」として一躍有名になったのは、サン・セバスチャンのバル「ラビーニャ」のTarta de quesoが元祖ですが、今ではサン・セバスチャンのあちこちのバルに広がり、それぞれの味になって提供されています。
そんなバスクチーズケーキが本書にないのは、前述したように、ピンチョスに代表されるようなバル料理を取り扱っていないためと思われます。
そこでバルで人気の料理については、本書と同じ誠文堂新光社から出ている『バスクバルレシピブック』という本の紹介でまとめることにします。
本書は料理本であると同時に、バスク文化を広く知るための入門書として欠かせない本であるのは間違いありません。
著者プロフィール
(本書より)
和田 直己(ワダナオミ)
1977年生まれ、埼玉県出身。実家は精肉店、19歳で料理を志ざし、都内レストランで修行。2003年に渡仏、バスク地方の「オテルデピレネー・シェ・アランビット」(ミシュラン1つ星)にて勤務。その後ランド地方の「ビラスティング」(ミシュラン1つ星)で副料理長を務める。2007年帰国、渋谷「アバスク」開店当初より料理長を務め、2010年から3年連続でミシュラン1つ星を獲得。2012年12月アバスクを退社、2013年2月並木橋にバスク料理レストラン「サンジャン・ピエドポー」をオープン。
作元慎哉(サクモトシンヤ)
1982年生まれ、石川県出身。大阪の辻学園調理師学校でスペイン料理専攻科を卒業後、地元・金沢のホテルの洋食部門で3年間勤務の後、スペインへ渡り、5年滞在。オンダリビアの「アラメダ」、「フォンダ・サラ」、「ネイチェル」(いずれもミシュラン1つ星)、サンセローニの「カン ファベス」(ミシュラン3つ星)で修業。2011年7月に西麻布「FERMiNTXO(フェルミンチョ)」を、2014年1月アークヒルズに日本初のボカディージョ専門店「FERMiNTXO BOCA(フェルミンチョ・ボカ)」をオープン。
制作スタッフ
監修・レシピ・料理作成: 作元慎哉、和田直己
コーディネート: 馬場祐治、小成富貴子
企画・編集: 志田実恵
執筆: 山口純子、堀越典子、小成富貴子、小泉彩子、馬場祐治
料理・店内撮影: 手塚栄一
現地撮影: 菅原千代志
想定・デザイン: ニルソン(望月昭秀、木村由香利)
校正: 聚珍社
バスク語校正: 良田浩美
ディレクション: 図書印刷クリエイティブ・センター 神林嘉輝
協力: スペイン大使館経済商務部、スペイン貿易投資庁、スペインワイン協会、スペインワインと食協力、グリーンスペインブラス、フランス貿易投資庁、フランス観光開発機構
撮影・取材・校正協力: 青木繁、植西みつ、上村章文、小泉彩子、松浦芳枝、水科大輔、宮根靖明、宮根由美子
Special Thanks to: Jonke Aurreko, Benat Ormaetxea, Zenikazelaia, Alvaro Calleja, Joseba Arana
目次
バスクの基礎知識
バスクをより深く知るための8項目
バスク料理の基礎知識
バスク料理の代表的な食材・ピーマン類
スペイン・バスクのレシピ
基本のソース/スプ・ストック(だし汁):トマトソース・ピキージョソース/魚介のスープストック
スペイン・バスク 海のバスクのレシピ
- ヒルダのピンチョス
- イワシのレモンマリネ
- カサゴのケーキ
- イワシのマリネサラダ
- カタクチイワシの衣揚げ
- ココチャの衣揚げ
- バカラオのサラダ
- バカラオとピーマンのバスク風オムレツ
- カタクチイワシのオムレツ
- ピキージョのバカラオ詰め ピペラーダソース
- バカラオのピルピルソース
- バカラオのビスカヤ風
- アホアリエロ:バカラオのラバ追い風
- バカラオとアサリのグリーンソース
- ビルバオ風メルルーサのフライ
- マコガレイのチャコリ風
- マルミタコ:猟師風煮込み
- スズキのドノスティア風
- スズキのリンゴ酒煮
- インゲン豆とアサリの煮込み
- アサリの漁師風
- アサリごはん
- 魚介スープ
- タイのバスク風
- イカのスミ煮
- イカの鉄板焼き サラダ玉ネギのソースとイカスミソース
- イカの玉ネギフライのせ
- チャングロ:ドノスティア風カニの甲羅焼き
コラム01 地域別に見るバスクの食&文化 スペイン・バスク
コラム02 スペイン・バスク 一日の食事
コラム03 スペイン・バスクの会員制組織 美食倶楽部
スペイン・バスク 山バスクのレシピ
- ポルサルダ:ネギのスープ
- カボチャのポタージュ
- アルビア黒豆の煮込み
- インゲン豆とチョリソーの煮込み
- ヒヨコ豆の煮込み
- ジャガイモのギプスコア風
- ジャガイモのグリーンソース煮
- ホワイトアスパラガスの生ハム巻き
- メネストラ:季節野菜の温サラダ
- 鹿ロースの鉄板焼き 洋ナシのコンポート添え
- ビスカヤ風ハチノスの煮込み
- チストラ:羊腸ソーセージのリンゴ酒風
- バスク風地鶏のチャコリ煮
- 豚足の煮込み リンゴとドライフルーツのコンポート添え
- 牛タンのトロサ風シチュー
- 仔牛ホホ肉の赤ワイン煮
- 骨付き肉の炭火焼き
- フォアグラの鉄板焼き リンゴ酒のカラメルがけ 季節の果物 リンゴのピューレ添え
コラム04 スペイン・バスク トップシェフと著名レストラン
コラム05 美食の都 サン・セバスティアンの魅力
コラム06 スペイン・バスク料理 基本のソース
- インチャウルサルサ:クルミのアイスクリーム
- リンゴのオーブン焼き
- パンチネタ:バスク風カスタードパイ
- ライスプディング
- リンゴのパイ
- コラム07 食に感謝し楽しむ バスク地方の祭
コラム08 バスク流ナイトライフ 週末の夜のハシゴ酒!
コラム09 世界中から料理人の卵が集まるバスクの料理学校
コラム10 バスクの伝統的な農家・カセリオ
フランス・バスクのレシピ
基本のソース/スープ・ストック(だし汁):ジュー・ドゥ・ヴォライユ/フォン・ブラン/フュメ・ドゥ・ポワソン/ピペラードソース
フランス・バスク 海のバスクのレシピ
- タラのバスク風コロッケ
- 真イワシの酢漬け
- タラのピルピル
- タラとアンディーブのグラタン
- マグロのテリーヌ
- アトランティックサーモンのパイ包み オランディーズソース添え
- ヒメジのポアレ ココチャのソース添え
- メルルーサとアサリのバスク風
- チョロ:バスク風魚介スープ
- 温製生牡蠣とカリフラワーのグラタン
- ヒイカの鉄板焼き
- ヤリイカのアメリケーヌソース煮
- イイダコのスミ煮
- カニのグラタン
- ピキージョのズワイガニ詰め
- ガンパスのグリエ ピキージョ仕立て
- 手長エビのラヴィオリ キャビアソース添え
- オマールエビとキノコのフリカッセ
コラム11 地域別に見るバスクの食&文化 フランス・バスク
フランス・バスク 山バスクのレシピ
- ピペラード:南仏野菜と生ハムのグラタン ポーチドエッグ添え
- アランビッド風キノコオムレツ
- バスク風トリップ
- ガルビュール:生ハムと野菜のスープ
- 山栗のスープ
- 南瓜のスープ
- アショア:バスク風仔牛のラグー
- 仔牛の胸腺肉バスク風
- 牛ステーキ ベアルネーズソース
- 牛ホホ肉の赤ワイン煮
- プーレ・バスケーズ:骨付きホロホロ鶏モモ肉のトマト煮込み
- キントア豚のリエット
- キントア豚の白ワインブレゼ
- 豚足のパン粉焼き
- キントア豚のロースト
- ブータン・バスク:豚の地のソーセージ
- 仔羊肉のソーセージ
- 仔羊背肉のロースト ハチミツと黒コショウソース
- バスク風仔羊方肉のブランケット
- 仔羊モモ肉のロースト タイムソース
- ウサギのバスク風煮込み
- 蝦夷鹿の赤ワイン煮
- 鴨の心臓のプロシェット エスペレット風
- バスク風鴨モモ肉のコンフィ
- フォアグラのポアレ ブドウソース
- アランビッド風フォアグラのポッシェ
- バスク風パテ
- 仔鳩のローストとセップ茸のラヴィオリ
コラム12 エル・カミーノ 食の巡礼 バスク編
- ガトー・バスク
- マミア:自家製バスクの羊乳ヨーグルト
- ガトー・ブルビ
- リュス・ドロロン
コラム13 フランスのバスク模様のうつわ
コラム14 ワインやリンゴ酒 バスク地方のお酒
アルコール図鑑
バスク食材取扱店
著者紹介:作元慎哉
著者紹介:和田直巳
コラム15・16 シンプルで素朴 バスク地方のリネン/バスク地方の名産品
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